糖度計診断について

どこを計る?   どう診断する?   どう手を打つ? 

事前に生育が読める!

   作物の栽培では、土作り・土壌改良・肥料設計、加えてハウス栽培では保温・換気・かん水方法と、いろいろな作業が行われます。しかしながら、いくら万全な準備をしても、なかなか結果がオーライとはいきません。実際の栽培では、天候が時々刻々変化し、作物もこれに順応して生育が変化するため難しく、農業の名人ほど「毎年1年生だ!」と言われます。
   はじめに準備する土作り・肥料設計等は、育つ環境を整える作業であり、とても大事な作業です。しかし天候に応じて生育が変化することを考えると、作物の生育特性を十分理解することが農業では必要です。しかし天候に応じて生育が変化することを考えると、作物の生育特性を理解しないと、「花が流れた!」「しおれた!」「徒長した!」とか「病気が発生した!」と嘆くことになります。これらは結果としての現象を見ているだけで、原因をつかんでいないからです。事後チェックでなく事前チェックができれば、このうような事態を多少なりとも回避軽減することができるはずです。
   作物の樹液内養分分析をしてみると、樹液内養分のアンバランスは、肥料成分があるなしだけでなく、肥料養分を吸収する作物自体の根の活性度が非常に大きくかかわっていることがわかっていることがわかってきました。植物の生長に大きな影響を与える根が傷んでいるかどうかを判断するには、糖度計(屈折計・ブリックス計)を使う方法が、非常に簡便で現場の畑で誰にでもできる方法です。そこで生産者と共に糖度と生育の因果関係と、その回復方法を研究した結果、面白いことが分かり始めたのです。
   生産者は、糖度計で作物を事前チェックすることにより、1~2ヶ月後の作物の姿をイメージすることができるようになり、それに対する事前対策をとることができ、健全生育を実現しています。

糖度計の数値の意味するもの

   通常、農業で使用している糖度計は、正式には手持ち屈折計といい、専門用語ではブリックス計といわれるものです。この糖度計を使って見ている数字は、糖分だけを計っているのではありません。試しに緑茶・塩水やしょう油などを計ってみて下さい。糖分はないはずなのに、必ずレンズの先に数値が表示されます。では、何を計っているのかというと、それは液体の中に溶けている固形物(乾くと残る物)の濃度を計っているのです。
   植物が根で吸収した水・養分は、導管の細胞を浸透圧とイオン交換等によって重力に打ち勝って光合成する葉や生長点に運び上げられます。そのため作物の各部位の細胞液の濃度を糖度計で計り、その数値とバランスを診ることにより、この先、作物が徒長するのか?、花が流れるのか?、奇形果が出るのか?、等の問題が発生する前に分かるのです。

どこを計るか?
どう診断するか?

 それでは、作物のどの部分の糖度を計れば診断のためのデータが得られるかというと、以下の5ケ所です。

 ▼地上部
・生長点に一番近い展開した葉(以下最上葉)
・一番古い葉(最上葉)
・蕾または花(雌花)の子房と花梗部(花)
・生長点と最下葉の中間の葉(中間葉)

▼地下部
・根  根を掘り出し、水でよく洗いティッシュペーパー等で水を拭きとり、計る
 糖度計を使った作物の生育診断を行うときに、まず正常な値を知っていないと判断がつきません。当然、作物によって正常値は若干異なりますが、計り方と正常値の概略を以下に地上部と地下部に分けて示します。(表1)

▼地上部の樹体が正常な場合
(最上葉と最下葉の糖度を比較する)
   最上葉が高く最下葉が低い(最上葉と最下葉の差が1~2度で作物により異なる)のが正常。最上葉の濃度が最下葉より濃いので、薄いほうから濃いほうに移動する浸透圧の原理で、最下葉(下)から最上葉(上)へと樹液が移動する正常の糖度が異常に低い場合には正常とはいえない。

▼花が着花し、正常に肥大する場合(最上葉と花の糖度を比較する)
   最上葉より花の糖度が高いのが正常。花の糖度が最上葉より高ければ、光合成した同化物質が師管を通って転流するので、着果し正常肥大する。ただし、最上葉の糖度が異常に低い場合は正常とはいえない。

▼下から最上葉まで各部が正常に生育しする場合
(最上葉と中間はと最下葉の糖度を比較する)
   最上葉と最下葉の糖度比較が正常で、中間葉の糖度がその中間であれば正常。着果負担等が大きいと、中間葉の糖度が最下葉より低くなり、根に同化養分が送られにくくなり、なり疲れ現象傾向といえる。

▼根の活性度が高い場合
(根の糖度を計る)
   正常な根の糖度は、2度以下です。種蒔して最初に出てくる種子根の糖度は1度以下で、根傷みすると糖度が上がってきます。1年生・多年生・樹木とも吸収根の正常な糖度はどれも2度以下です。

最上葉より最下葉の糖度が高すぎたら、徒長し始める根傷みが起こっている

   正常な作物の糖度のバランスを理解して頂ければ、どんな時に異常なのかが推測できると思います。以下に具体的な異常な糖度と、その場合の主な原因を記します。(表1)


※ナス科は、ナス、トマト、ピーマン、シシトウ等
※苗から収穫後期までの各生育期の糖度は、多少異なります
※他の作物と、生育期別の糖度の必要な方はご連絡ください

【①】
 最上葉と最下葉の糖度差が2~3度以上開いている時(最上葉のほうが高い)は、栄養生長に傾き、徒長・葉が大きく、葉色が濃くなり始める。
   これは根傷み(根の糖度が上がる)が主原因。正常な植物は根部で吸収した硝酸態チッソを硝酸還元作用(硝酸態チッソを酵素がアミノ酸に変える働き)でアミノ酸に変えて地上部に移行してしまい、栄養生長に傾きます(体内にアミノ酸に変えられなかった未還元の硝酸態チッソが蓄積される)。根傷みすると、根の先端から出す根酸(根はこの根酸でく容性のカリ・マグネシウム・カルシウム等を溶かしながら吸収する)が出なくなり、体内の微量要素が欠乏して新陳代謝が悪くなり、このことによっても栄養生長に傾きやすくなります。
   根傷みし、細根の数が減ると作物体内のホルモンが、アンバランスになります。この場合、根で作られるサイトカイニンの割合が減り、頂芽優勢にするジベレリンの割合が多くなってくるので細胞が縦長肥大をする。そのために葉は大きく薄くなり、葉柄の角度が大きくなり葉は垂れてくる。また、節間が大きく伸びる。茎は、急激な細胞肥大のためにねじれます(トマトでは正常な生育では果房が一方に全部揃うのに、徒長生育では果房が横に着いたりする)。
   主原因である根傷みの要因として、育苗の失敗・肥料過多・土壌成分pHのアンバランス・未熟堆肥の施用・前作の害・センチュウC/N比(炭素率)が低下し軟弱生育して起こることもあります。栽培作業での早急な側枝のピンチ・主枝の垂直誘引しすぎ・ハウスの換気不良等々の管理作業によってもこの現象を発現させることにもなりまます。以上のようなが要因があると、根傷みが起こっているので根の糖度が必ず高くなっているはずです。

最上葉より最下葉の糖度が高ければ、しおれる

【②】
 最上葉と最下葉の糖度差が逆転している時(最上葉のほうが低い)は、しおれが発生しやすい。伸育ストップ。
 1の原因と同じく根傷みがあり、それに加えて曇天が2~3日続くとしおれが発生する。
【③】
 最上葉と最下葉の糖度差が同じか、または非常に近い時は、伸育ストップ・芯止まり・病害虫が発生しやすい。しおれすい。
   1の原因が進行し、根の糖度がより上がってくると発現する。根の速やかな回復をはかる必要がある。

最上葉の糖度が異常に低ければ肥料はやるな

【④】
 最上葉の糖度が異常に低い(3度以下)時は、病害虫、生理障害が発生しやすい。葉面散布剤が効きにくくなる。
   1の原因で根が極度に傷み(根の糖度が5度以上になっている)、チッソ・リン酸・カリ・微量要素の吸収が非常に悪くなっている状態。
   普通には、肥料の追肥をやりたいところだが、肥料が効かないのは根の傷みが原因であるので、肥料を施すとかえって肥料濃度を上げる等で根傷みを助長することにもなりかねない。根の傷みを速やかに回復することに重点を置く。冬季には、地温の保持に注意が必要。また、地上部の新陳代謝を活発にしてやることも必要です。
【⑤】
 最上葉と最下葉が正常で、中間葉が最下葉の糖度より低い時は、根の張りが低下。なり疲れ発生。薬害が出やすい。
   育苗の失敗や生育初期の根の張りが悪く、着果してからの着果負担が大きかったり、温度管理が高すぎたりすると、光合成の割合より呼吸・蒸散にエネルギーの転流が減少し、根の発根・肥料の吸収能力も衰えてしまう。
   着果数が多いようであれば摘果して着果負担を軽減する。温度管理に注意する(特に午後の高温多湿に注意)。

最上葉より花の糖度が低いか同じなら、着果不良

【⑥】
 最上葉より花の糖度が低い時は、花が落ちる。着果しても途中で腐り、落下。
【⑦】
 最上葉と花の糖度が同じか非常に近い時は、着果しても肥大がスロー。奇形果になりやすい。
   これらは①の根傷みの原因があり、枝葉に未同化の硝酸態チッソが蓄積して栄養生長の傾向に傾いている。動物であれば、母親が栄養失調のために生理不順になっているようなもので、子供を作るステージでなく、流産しやすいということと同じです。このような作物の花は咲いても雄しべが退化し、花粉が出なくなる。また、単為結果の作物でも、花の糖度が低いと育てるステージでないため花が流れて(流産)しまう。
   ①の根傷みが原因で体内に未同化の硝酸態チッソが蓄積し栄養生長に傾いているので、根傷みの回復が必要です。

根の糖度が2度以上なら根傷み

【⑧】
 根の糖度が2度以上ある時は、根傷みしている。
【⑨】
 根の糖度が3.5度以上ある時も、根傷み状態。生理障害(特に微量要素の欠乏症)が発生する
【⑩】
 根の糖度が5度以上ある時も、根傷み。生育・肥大がストップする。
   根の糖度が高いということは、根傷みしていることです。根傷みの原因は①の対策と同じく、根傷みの要因を取り去ることです。

根傷みの原因を取り除く

 糖度計を使って生育診断を実施し異常が見つかっても、それに対応する対策方法がなければ何も役に立ちません。そこで、異常な糖度を正常方向に導くための基本的な対処方法をご紹介します。

▼地下部の対策方法の例
   すべての異常糖度に関している「根傷み」(根の糖度が上がっている)の原因をつきつめて、それを取り除くことが第一です。
   対策方法の例としては、土壌中の未熟有機物(前作の残根・死滅根・堆肥など)から発生する有害ガス(アンモニアガス・硫化水素など)を無害にして発根しやすい環境にし、ECなどの根の環境をととのえる[再活ドライフロアブル(DF)]と、根が傷みだす根酸と同じ働きをし、く溶性のカリ・微量要素類を溶かし吸収しやすい状態に改善させる[根酸]を、液肥と同じ方法でかん水施用します。この時25~30度に温めた水を使うと非常に効果的です。瞬間湯沸器方式の超大型農業用水温調整器[地温水]で温めてかん水施用します。
   根の糖度は低いが根の伸育不良の場合には、自活エネルギー供給剤[パワーゲン]もしくは[C/Nアップ]で発根に必要なエネルギーを供給します。センチュウ害の時は[ネマトーヒ]をかん水施用する。 [ネマトーヒ]は栽培途中でも害がなく、かん水施用することでセンチュウがつきにくくなります。前作の食べ残しの残留肥料が過多の場合には、水を張りつづけなくても残留肥料を減らす[ECゼロン]で正常値にすることができます。

再活ドライフロアブル
再活DF

根酸(こんさん)
根酸
ネマトーヒ
ネマトーヒ

ECゼロン
EC-ゼロン

C/Nアップ

▼地上部の対策方法の例
   地上部の糖度バランスが悪い時は、枝葉に蓄積した硝酸態チッソをアミノ酸に変え、光合成・新陳代謝を活性化させる[シャングー]、アミノ酸が結合した水溶性コラーゲンで光合成・新陳代謝を高める[元気元]、地上部の炭素率を上げる[パワーゲン]もしくは[C/Nアップ]、葉の表皮細胞と類似成分で、表皮をかたく強くする[リーフガード]を適宜に選択して葉面散布する。
   なお、葉面散布に使う水も温かい水を使うと効果的です。冷水では葉が気化熱を奪われて、生理障害が発生します。
   ここでは、取りあえず当方の資材を紹介しましたが、他メーカーの各種資材も糖度計を施用して改善効果を確認されるのもよいと思います。

シャングー
シャングー
元気元
元気元
リーフガード
リーフガード

苗のよしあしを判別する

   栽培中の作物の糖度計での診断方法と対策を述べてきましたが、苗半作と言われるほど重要な、苗の良否も診断できます。
   育苗中・定植前の苗の根を1~2本取り出し、よく水洗いしてテッシュペーパー等で水分を取り除き、糖度計のプリズムに挟んでつぶして糖度を見ます。判断の目安は次の通りです。

▼2度以下の場合は、正常で活着良好

▼2~3.5度以上の場合は、根傷み発生、活着遅れる

▼3.5度以上の場合は、根傷み状態で活着が悪く徒長する。花芽形成不良・なり疲れが発生・初期生育が過繁茂で後半バテる。リン酸・カリ・微量要素類の吸収が不良
   こんなときは、根部(ポット)は[再活DF]の1,000倍液(25~30度の水を使用)にポットの土の部分を4分の3ほどをドブ浸け処理します。また地上部には[シャングー]の500~1,000倍液を葉面散布します。

接木の活着率をよくする

   接木の2~3日前に台木と穂木の接木部分の糖度を調べると接木の活着を予測できます。

▼台木より穂木の糖度が高い場合は、活着良好

▼台木より穂木の糖度が低い場合は、活着不良。着いても徒長しやすい。
   つまり、台木より穂木の糖度(濃度)が高くないと、浸透圧の原理から水分・養分が台木の根から穂木の生長点まで運ばれないことになります。
   穂木の糖度が低い場合は、穂木だけに[シャングー]を葉面散布して糖度を上げます。

果樹・根茎類は冬に診断すれば、春からの生育がわかる

   永年作物である果樹類・根茎類は、冬季に糖度を計って、春からの生育を予測できます。
   冬の間に糖度を計ると、秋まで根が健全であった永年作物は、根で吸収した硝酸態チッソをアミノ酸に同化し、それを原料として光合成した結果、枝・地下茎等の糖度が高くなっています。そして春からの順調な生育が約束されます。
   根傷みしたものは、枝・地下茎等に根で吸収した硝酸態チッソが、未同化のまま移動し硝酸イオンとして蓄積されているので糖度が低くなっています。開花がムラになったり、病害虫が多発することが予測できます。つまり秋季の蓄積養分の量を糖度計で調べるわけです。

▼果樹類は、冬季に枝の樹皮の糖度を計る。越冬初期は20度以上で春の発芽直前には2~3度低下する(硝酸イオン・リン酸イオンを合わせて計るとよい)

▼根茎類は、越冬期に根茎を堀りあげて糖度を計る。糖度が低い時は、根傷みの要因を取り除き、最初に出た吸収根にリン酸肥料を吸わせるとよい

土壌改良剤・葉面散布剤等の効果を見極める

   色々な効果をうたっている資材があります。効果というものは、その資材を使うことにより必ず作物の生体内生理に何かしらの変化が起こり、効果が発現するか否かは、資材の使用前と使用後の作物の糖度を計り比較することにより判明します。つまり、効果の発現前に糖度測定により資材の良否がわかってしますのです。

   糖度計を使った生育診断とその原因および対策方法のアウトラインを述べましたが、地上部のほとんどの現象(病害の発生・徒長・過繁茂・しおれ・着果不良・肥大不良・糖度不足等々)は、地下部の根の活性度が落ちていること(根の糖度が高い)に起因しています。根の糖度が高い場合には、根の痛んだ原因を模索検討して、その原因を取り除くことです。「良くするのでなく、悪くしない」という考え方をすることです。栽培初期から悪くしないで栽培できたら素晴らしい良品が多収穫できるはずです。